今回は売上諸掛りについて説明します。
これは2022年度から日商簿記3級の試験範囲になった内容で、僕の生徒さんも最初は、「意味が分からない」という感想を持つことが多い論点です。
この記事では、具体的な問題を使って、深い意味合いの部分まで解説していきます。
具体例を出して説明します
【例題】
当社は得意先へ、商品500円に送料20円を加えた合計額で販売し、代金は掛けとした。なお、送料20円は現金で支払った。
ではまずは解答を表示します。
やり方を覚えてしまえば、仕訳の答え自体は割と簡単に書けるようになります。
でも、「答えは書けるけど意味が分からない」という人が非常に多い論点です。
なぜ売上が520円になるのか?
この仕訳の解釈の仕方というか、イメージをお伝えしますね。
結論を言うと、送料込みの520円で売ったということです。
商品の値段自体は確かに500円です。
でも、その商品を、相手の場所まで運ぶというサービス込みで、520円ということです。
当社が相手に提供すべきこと、つまり当社がやるべきこととしては、
商品を相手に売るのは当然として、さらにその商品を相手の場所まで届けるということですよね。
・商品を売る
ことと、
・相手の所まで運ぶ
ことは、切り離して考えることはできません。
だから「売上」は520円なのです。
当社が客に提供すること全体で考える
一応客に対しては、
「500円の商品ですが、お客様ご負担の送料が20円かかります。」
という触れ込みで伝えているのかもしれません。
ですが、客の場所まで運ぶ費用が実際にピッタリ20円とは限らないんですよ。
しかもそれ、客には分からないですからね。
送料が実際にはいくらかかったかなんて。
実際に発送をする際には、20円よりももっとお金がかかるかもしれないし、逆にもっと安く発送できるかもしれません。
でも、それは販売者側の問題なので、お客さんには分かりません。
お客さんが知れることは、届けてもらうというサービス込みで520円ということだけです。
僕らも通販で何か物を買うときに、「送料いくら」という表示を見ると思いますけど、ホントにその額の送料がかかっているのかは僕らには分からないじゃないですか。
例えば、ネット通販で買い物をしようとすると、客負担の送料が相場よりも明らかに高い場合があります。
商品代金自体はかなり安いんだけど、送料が30,000円とか。
まぁ30,000円は極端な例ですけど、数百円程度なら多めに取っている販売者は結構いると思います。
でも、そのことは買い手には分かりませんよね。
話が逸れましたが、とにかく、
今回の取引に関しても、そもそも当社としては500円と20円を分けて考える必要が無いってことです。
そして、それは客側からしても同じかもしれないですよね。
別に520円の内訳なんて、どうでもいいじゃないですか。
商品代金 500円
送料 20円
合計 520円
と伝えられているのかもしれませんが、
たとえば、
商品代金300円
送料220円
合計520円
でも同じですよね。
まぁ、気持ちの問題はあるかもしれませんけどね。
「商品が300円なのに送料が220円もかかるのか、送料もったいねぇなぁ」
みたいな。
でも、合計額が520円には変わりないので、当然負担額は同じですから、内訳ってどうでもいいっちゃどうでもいいですからね。
だから当社側から見ても、とにかく当社がやるべきこととしては、
・商品を売る
・商品を届ける
の2つであり、この2つのセットで520円として扱うのです。
履行義務とは(3級には出ないけど一応)
で今、当社の【やるべきこと】って言いましたけど、
一応このことを、【履行義務】と言います。
当社がやるべきこと、つまり当社が客に提供すべきことですね。
それを【履行義務】というのです。
なので、今回の取引における当社の【履行義務】は、
・商品を売る
・商品を届ける
の2つです。
【履行義務】という言葉は日商簿記3級では出てきませんが、2級には出てきます。
2級のテキストには載っていますからね。
【履行義務】という言葉を使うなら、当社の【履行義務】、つまり当社のやるべきことは、
・商品を売る
・商品を届ける
の2つであり、この2つは一体となって存在しているサービスなので、切り離すことができないということです。
だから売上は520円なんです。
日商さん、分かりづらいっす
なので正直言うと、問題文で、
「商品500円に送料20円を加えた合計額で」
と書いてありますけど、実際問題その情報いらないわって感じなんですよ。
500円と20円という内訳の情報いらんわ!って。
ただ単に『520円で売り上げた』ってだけだったら分かりやすいのにって思いますね。
だって、どうせ520円全てを売上に計上しなきゃいけないんだから、内訳の情報いらないじゃないですか。
ただ、現実として問題でこういうふうな文章で出題されてしまいますからね。。。
ホント、こういうところが日商さんなんですよね。
日商さんはたまにこのような不可解なことをやります。
まぁでもしょうがないですね、日商さんがこういった表現の問題文で出題してくるわけですから、試験を戦う僕らはそれに対応するしかないですね。
520円の内訳はどうでもいい
でまぁ話を元に戻しますが、当社の売上は、当社の【履行義務全体】で考えます。
つまり、当社が客に対して提供するもの全体で売上の額を決定するということです。
だから売上は、520円なんです。
なので当社としては、
合計520円
ってことを決めたあとに、500円と20円という内訳を決めている可能性すらありますからね。
要は、その内訳を決める意味というのは客に対する触れ込み、宣伝なので、
その内訳を『いくら いくら』にするのが最も客に対する印象が良いかを考えて、あとから決めている可能性もあるということです。
つまり客に対する印象ってどういうことかというと、今回のように、
商品代金500円で送料20円
ということで売り出すのか、
あるいは、
商品代金300円で送料220円
にするのか、
それとも、
商品代金520円で、送料無料
にするのか。
どのパターンで売り出しても、結局は合計で520円だから、当社が受け取れる金額は同じで、利益も同じですからね。
そして発送するときに、送料が実際にいくらかかるのかは当社の問題ですから、先ほども言ったように客には分かりません。
送料無料はあり得ない
今回の仕訳の意味合いを、より掴みやすいように、【送料無料】ということについてお話しします。
Amazonでも楽天でもどこでもいいのですが、通販で物を買うときに送料無料っていうケースがあるじゃないですか。
でも、よくよく考えると送料無料ってあり得ないんですよ。
自宅まで送ってもらうわけですから、そのコストがゼロなわけがない。
ですから、あれは送料無料と言いつつ送料無料じゃないんです。
多くの場合、商品代金自体に送料分が含まれています。
だから、見えないだけで、買い手側が知らずに送料を負担させられています。
まぁ、本当に送料を売り手側が負担してくれているケースもあるかもしれませんが、でも、
・商品代金自体に送料分が含まれている場合
・送料を売り手側が負担してくれている場合
の違いって何ですか?と言われると、正直違いは無いんですよ。
どっちも変わらないというか、どうでもいいんです。
・商品代金自体に送料分が含まれている場合
・送料を売り手側が負担してくれている場合
の違いというのは、もう単なる言い方の違いというか、捉え方の違いに過ぎないので、どうでもいいのです。
これ、送料は当社負担と考えるべき
で、今回の仕訳の解答は仕訳が2行なんですけど、1行目の仕訳と2行目の仕訳は別物と考えたほうがいいと思います。
(売掛金)520 (売上)520
と
(発送費)20 (現金)20
は、
それぞれ独立した別々の取引と考えたほうが理解しやすいでしょう。
- 520円で商品を掛けによって販売し、
- その後、送料(発送費)を支払った
という2つの取引だと考えるということです。
なので、今回の取引の送料は、実質的には客の負担かもしれませんが、純粋に会計処理を見ると送料は当社負担です。
だって、当社に「発送費」っていう費用が計上されているんですから。
もしも実際にかかった送料が少なかったら
さらに言うと、今回の問題は、
・商品代金500円
・送料20円
ということを客に伝えて販売し、実際にかかった送料も20円だったわけですが、
もし、実際の送料が15円だったらどんな仕訳になると思いますか?
まぁそんな問題は出ないと思いますけど、念のため説明しておきます。
もし実際の送料が15円だったら、そのときの仕訳は、こうなりますからね。
もしこれが客にバレたら、客としては騙されたような感覚になるのかもしれません。
「なんだよ、客に対しては送料が20円かかると言っておきながら、実際には15円しかかかってねぇじゃねーか!」
という感じに。
でも、現実の送料の額が客側に知れることはまずないでしょうし、それに冷静に考えると、客にとって重要なのは合計額で520円ということだけなので、内訳に興味を持つ意味はありません。
店側としても、とにかく送料込みの520円で「売上」を計上するとともに、発送のときに実際にかかった金額を「発送費」で計上すればいいのです。
そういうことから考えても、やはり、会計処理を見ると送料は当社負担と考えるべきだと思います。
まぁ、客としては、送料を自分(客側)が負担したと思い込んでいるのかもしれませんが、冷静に売った側(当社)の仕訳を見ると、やはり送料は当社が負担しています。
当社が「発送費」っていう費用を計上していますからね。
最後に練習問題
では、最後に仕訳の練習問題を一問やってみます。
【問題】
当社は得意先へ、商品700円に発送費用50円を加えた合計額で販売し、代金は掛けとした。なお、発送費用50円は現金で支払った。
では答えを表示します。
「売掛金」と「売上」に計上する金額は、
700円+50円=750円
となります。
なお、大丈夫だとは思いますが、『発送費用』というのは『送料』のことですからね。
ということで、今回は売上諸掛りについて解説しました。
参考になれば幸いです。
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