簿記3級の決算整理仕訳の中で多くの学習者を悩ます論点に、『費用・収益の決算整理(経過勘定の仕訳)』があります。
費用・収益の決算整理は、
- 費用の前払い(前払費用)
- 費用の未払い(未払費用)
- 収益の前受け(前受収益)
- 収益の未収(未収収益)
の4つがあり、似たような勘定科目がいくつも出てくるため非常にややこしいと感じる方が多いです。
また4つのパターンとも、決算整理仕訳を行ったら翌期首には必ず再振替仕訳を行うわけですが、この再振替仕訳に関しては、一般的なテキストでは意味合いまでは説明されていないため、理解するハードルはかなり高いと思われます。
ですが、
- 費用の前払い(前払費用)
- 費用の未払い(未払費用)
- 収益の前受け(前受収益)
- 収益の未収(未収収益)
の4つは、実は考え方自体は全部同じです。
たった一つの考え方され理解してしまえば、4つ全てに対応できます。
なので、実際にはそれほど難しい内容ではありません。
この記事では、4つのうちの一つ、
・費用の前払い(前払費用)
について「支払家賃」「前払家賃」を例に解説します。
- 期中仕訳(支払い)
- 決算整理仕訳
- 再振替仕訳
の3つを、全て一つのストーリーとして繋げて説明しますので、ぜひ最後まで読んでください。
なお、
・費用の未払い(未払費用)
については以下の記事で解説していますので参考にしてください。
【未払費用】未払家賃の決算整理仕訳と再振替仕訳をわかりやすく解説(簿記3級)
【勘定科目の説明】前払家賃と支払家賃
まずは勘定科目を軽く説明します。
支払家賃とはどんな勘定科目？
「支払家賃」は、発生した家賃を計上する費用の勘定科目です。
- 期中仕訳(支払い)
- 決算整理仕訳
- 再振替仕訳
の3回全てに登場します。
前払家賃とはどんな勘定科目？
「前払家賃」は、前払いとなった家賃を計上する資産の勘定科目です。
2．決算整理仕訳
3．再振替仕訳
の2回で登場します。
1．期中仕訳(支払い)
で出てくることはないです。
支払家賃と前払家賃の具体的な仕訳
ではこれから、
- 期中仕訳(支払い)
- 決算整理仕訳
- 再振替仕訳
を順番に具体例で説明します。
3つが全てつながった一連の取引としての具体例です。
なお、決算は3/31とします。
期中仕訳(支払い)
まずは期中仕訳です。
【問題1】
第1期の8月1日に建物の賃借(月額の家賃30円、契約期間1年)を開始し、1年分の家賃を普通預金から支払った。
解答は次の通りです。
※30円×12ヵ月＝360円
この仕訳自体は全く難しくありません。
ですが、契約期間をチェックしておいてください。
問題文にある通り賃借の契約期間は1年なので、
第1期の8/1～第2期の7/31
ということです。
決算整理仕訳の問題を解くときに必要な情報となります。
また、この仕訳により支払家賃勘定は次のようになりました。これも意識しておいてください。
決算整理仕訳(前払家賃の計上)
では、決算整理仕訳を見ていきます。
ここからが本番です。
【問題2】
第1期決算において、家賃の前払いを月割りにより計上する。
解答は次の通りです。
この手の問題を解くにあたって、考えるべきことは非常にシンプルです。
当期(第1期)の費用にすべき金額はいくら(何ヵ月分)なのか
を考えてください。
費用というのは、この問題でいうと「支払家賃」のことです。
つまり、
第1期の支払家賃にすべき金額はいくら(何ヵ月分)なのか
を考えてください。
これは、
第1期は建物を何ヵ月利用したのか
で決まります。
賃借の契約は1年間で、
当期(第1期)8/1～翌期(第2期) 7/31
が契約期間です。
このうち、第1期にあたるのは何ヵ月なのかを数えます。
頭の中だけで数えることもできるのですが、こういうのは図を描いた方が確実です。
次のタイムテーブルを見てください。
『8月～3月』を数えます。
そうすると、第1期の利用は8ヵ月だということが分かりますね。
よって、第1期に計上されるべき支払家賃(費用)は8ヵ月です。
そうしましたら、8ヵ月分の金額を月割りで計算します。
30円×8ヵ月＝240円
ということで、第1期に計上されるべき「支払家賃」は240円です。
要するに、費用の計上は最終的には(決算整理では)支出ではなく発生で考えるということです。
支払家賃の『発生』とは、期間の経過です。
つまり、お金を払ったから費用になるのではなく、期間が経過したから費用になるのです。
この考え方を理解してほしいと思います。
で、ここまでできれば簡単です。
第1期の「支払家賃」が240円になるように調整するだけです。
「支払家賃」は、8/1の契約時において1年分の360円を計上していますので、支払家賃勘定は現時点では次のようになっています。
なので、差額の120円をマイナスするために貸方に計上すればいいのです。
※360－240＝120
したがって、まずは、貸方に支払家賃120円です。
これにより、支払家賃勘定の残高は240円になりました。
で、次に借方ですが、借方は「前払家賃(資産)」を120円計上します。
意味としては、前払いになっている家賃が120円あるということです。
家賃を1年分まとめて先払いしたことによって、第2期分まで含めて払ってしまっているからです。
既に支払った金額のうち第2期分が何ヵ月かを数えると、『4月～7月』の4ヵ月分だということが分かります。
4ヵ月分の金額を計算すると、120円になります。
30円×4ヵ月＝120円
この金額を「前払家賃(資産)」で計上するということです。
解答の仕訳を再度表示しておきます。
前払家賃が資産である理由
なお、前払家賃が資産であることの解釈の仕方は、主に次の2つがあります。
建物を利用できる権利という解釈
一つ目は、
現時点において、建物(部屋)を利用できる権利を4ヵ月分持っている
という考え方です。
今現在は決算(3/31)なので、賃借が終了する7/31まで、あと4ヵ月あるわけです。
だから今の時点では、
家賃4ヵ月分という資産
を持っていると考えることができます。
仮に今すぐに契約を打ち切ったらお金を返してもらえるという解釈
二つ目は、
現時点では、4ヵ月分のお金を返してもらえる権利を持っている
という考え方です。
仮にの話ですが、もし今すぐに解約をして部屋を出て行くことができるとしたら、そのときは4ヵ月分の家賃は返してもらえますよね。
しつこいようですが、今はまだ3/31であり、そして7/31までの家賃は既に支払済みです。
なので、今の時点では『家賃4ヵ月分のお金を返してもらえる権利』があるわけです。
もちろんこれはあくまでも理論上の話であって、現実として契約を途中で解除できるかどうかはまた別の話です。
ただ、
なぜ前払家賃(資産)が発生するのか？
の解釈の仕方としてアリだと思います。
再振替仕訳(決算整理仕訳の逆仕訳)
最後に再振替仕訳です。
ここを理解できれば、一連の流れを全てマスターしたことになりますので、あともう一息です。
【問題3】
第2期期首、前期決算で計上した前払家賃について再振替仕訳を行った。
まずは解答の仕訳を表示します。
見ての通り、第1期の決算整理仕訳の逆仕訳が解答となります。
よって再振替仕訳は単に解答するだけなら非常に簡単です。
しかし問題は、なぜこんな処理を行うのか？です。
その意味合いをこれから解説します。
再振替仕訳の効果は次の2点です。
- 当期(第2期)の「支払家賃」を計上する効果
- 「前払家賃」を消滅させる効果
では一つ一つ説明します。
当期(第2期)の「支払家賃」を計上する効果
まず、再振替仕訳を行うことにより「支払家賃」を借方に計上することができます。
お金の支払い自体は既に第1期にやってしまっているわけですから、家賃を『払う』という仕訳を第2期に行うことはありません。
つまり第2期には、期中の仕訳として「支払家賃」を計上する機会は無いことを意味します。
よって再振替仕訳をしないと、第2期の「支払家賃」はゼロになってしまうわけです。
しかし、ゼロではいけません。
なぜなら、第2期も建物を利用しているからです。
4/1～7/31までの4ヵ月間は建物を利用しているので、この4ヵ月間の家賃は第2期の「支払家賃」として計上する必要があります。
それを再振替仕訳によって行っているということです。
前払家賃を消滅させる効果
2つ目の効果は、「前払家賃」を消滅させることができることです。
「前払家賃」は資産なので、第1期の残高120円が第2期に繰り越されてきています。
再振替仕訳で「前払家賃」を貸方に計上することにより、「前払家賃」は残高はゼロとなり消滅します。
家賃が前払いになっている状態というのは、第2の7/31までの話なので、時が経過すればいずれ『前払いの状態』ではなくなります。
だから、再振替仕訳をして「前払家賃」を消しておくのです。
再振替仕訳を行う時期は、なぜ『期首』なのか？
稀に生徒さんから質問されることとして、
「再振替仕訳はなぜ期首に行うの？」
というものがあります。
この質問の意図としては、
「再振替仕訳は期首に慌ててやらなくてもいいのではないか？」
ということです。
これ実際その通りで、再振替仕訳は当期のどのタイミングで行っても、結局は当期に与える影響は変わりません。
むしろ、期首に行うのではなく7/31になってから行った方が理屈としては正しい可能性さえあります。
なぜなら、今回の問題において、
前払家賃(家賃を前払いしたことによる資産)
が完全に消滅するタイミングは、実際には7/31だからです。
なので、再振替仕訳は7/31になってから行っても別に支障は無い(むしろそのほうが理屈に合ってる)と個人的にも思うのですが、一応簿記のルールとして再振替仕訳は期首に行うことになっています。
7/31に行おうとすると忘れる危険性があるからなのかもしれません。
まぁ、どうせいつやったって当期に与える影響は同じなので、だったら必ず期首に行うと機械的に決めておいた方が、仕訳漏れを防ぎやすいですからね。
ともあれ、これにより一連の仕訳は全て終了となります。
支払家賃を第1期と第2期で適切に分けることができる
ということで、
- 期中仕訳(支払い)
- 決算整理仕訳
- 再振替仕訳
を全て解説しました。
以下に、今回行った仕訳をまとめます。
期中仕訳(第1期の8/1)
決算整理仕訳(第1期の3/31)
再振替仕訳(第2期の4/1)
期中仕訳は特に難しくはありませんが、学習者の方が理解に苦労するのは、やはり、
- 決算整理仕訳
- 再振替仕訳
の二つだと思います。
単に仕訳の形を覚えるのではなく、理解することを目指してほしいと思います。
暗記よりも理解をするほうが楽です。
再振替仕訳に関しては、【とにかく逆仕訳をする】と覚えておく方法でもまだいけますが、決算整理仕訳に関しては、単に暗記するのはむしろ非常に難しいです。
なぜなら、パターンが多すぎるからです。
この記事の冒頭でも書いた通り、費用・収益の決算整理は、
- 費用の前払い(前払費用)
- 費用の未払い(未払費用)
- 収益の前受け(前受収益)
- 収益の未収(未収収益)
の4つがあります。
似たような勘定科目が数多く出てきますので、単なる暗記で対応しようとすると頭の中がごちゃごちゃになります。
なので、暗記ではなく理解をしましょう。
理解すべきポイントはたった一つ。
当期の費用・収益にするべき金額はいくらか
です。
この一つに焦点を当てるだけで、
- 費用の前払い(前払費用)
- 費用の未払い(未払費用)
- 収益の前受け(前受収益)
- 収益の未収(未収収益)
の4つ全てに対応できます。
今回の問題でいうと、「支払家賃(費用)」にすべき金額は、
- 第1期 → 240円(8ヵ月分)
- 第2期 → 120円(4ヵ月分)
です。
- 決算整理仕訳
- 再振替仕訳
の二つをしっかりと行うことによって、
「支払家賃(費用)」を第1期と第2期に割り振ることができるわけです。
ということで、
・費用の前払い(前払費用)
の説明は以上となります。
なお、日商簿記3級を勉強中の方向けに完全無料でメルマガを配信しています。
今すぐご登録の場合、巷のテキストや参考書とは一線を画した超有益な教材を無料でプレゼントしております。
コメント