貸倒引当金の仕訳は簿記3級の決算整理の問題でほぼ間違いなく出題されます。
貸倒引当金の処理は、やること自体はそれほど難しくないので、計算方法や仕訳の形を覚えてしまえば高確率で得点できる内容ではあります。
ですが、問題は解けるけど意味が分からないという人が非常に多い内容でもあります。
この記事では意味合いをしっかりと解説しますので、ぜひ最後まで読んでほしいと思います。
貸倒れの仕訳と貸倒引当金の仕訳
貸倒れ時の仕訳
貸倒引当金の仕訳を理解するために、前提として知っていなくてはならないのが、貸倒れ時の仕訳です。
貸倒れ時の仕訳についてはこちらの記事でかなり詳しく説明していますので、よかったらご覧ください。
貸倒れとは、得意先(客)が倒産することにより、当社の持ってる債権(売掛金など)が回収できなくなることをいいます。
回収できずに債権が消滅してしまうので、当たり前ですが当社としては損をします。
まずは貸倒れ時の基本の仕訳を押さえてください。
当期発生の売掛金30円が貸し倒れた場合の仕訳は次のようになります。
※貸倒損失は費用です
まずはこの仕訳を押さえてください。
この仕訳を理解してからでないと、「貸倒引当金」の仕訳は絶対に理解できません。
貸倒引当金計上の仕訳
で、貸倒れというのは一定の確率で起こります。
しょっちゅう起こるというほどではないですが、たまに起こるのは仕方のないことなのです。
お客さんは1社や2社ではなく、数多くいるのが普通ですから、中には倒産してしまう会社(客)が出てくるのは仕方ないでしょう。
なので決算において、翌期に貸倒れが起こる金額を予測して、損失を先回りして計上する決算整理仕訳を行います。
このときに使用する勘定科目が、
- 貸倒引当金繰入(費用)
- 貸倒引当金(資産のマイナス)
です。
翌期に貸倒れが起こる予測額は次の算式で計算します。
決算時の売上債権×貸倒実績率
※売上債権とは、
- 売掛金
- 受取手形
- 電子記録債権
などのことですが、ここではわかりやすいように「売掛金」に絞って解説します。
では、具体的な金額を使って説明します。
決算時の「売掛金」が1,000円だとします。
この1,000円は、数多くの客への売掛金の合計額です。
- A社への売掛金が10円
- B社への売掛金が3円
- C社への売掛金が5円
というように、当社は色々なお客さんに対して売掛金があるというイメージを持ってください。
そして、貸倒実績率が3%だとします。
貸倒実績率とは、過去に起きた貸倒れの割合です。
「これまでは1年間あたりこのくらいの貸倒れが起きたから、翌期もこのくらいだろう」
という割合です。
そうすると、
1,000円×3%=30円
で、
翌期に起こる貸倒れは30円と予測することになります。
で、先ほども言ったように、翌期において貸倒れが起こる可能性が高いなら、その分の損(費用)を当期に繰入れてしまおうという処理を行います。
翌期の貸倒れを30円と予測した場合、仕訳は次のようになります。
貸倒引当金繰入 → 費用
貸倒引当金 → 資産のマイナス
この仕訳は、
まだ貸倒れは起きていないが、翌期に起こる可能性が高いので、前倒しで損(費用)を計上する
という仕訳であり、
貸倒れが起きたときの仕訳と似たようなことをやっている仕訳です。
このことは、実際の貸倒れの仕訳と比べてみるとよく分かります。
まず、二つの仕訳の借方に注目してください。
実際に貸倒れが起きた場合の仕訳
→貸倒損失(費用)
貸倒引当金の決算整理仕訳
→貸倒引当金繰入(費用)
両者はどちらも費用であり、勘定科目の性質としてはよく似ています。
次に、二つの仕訳の貸方に注目してください。
実際に貸倒れが起きた場合の仕訳
→売掛金(資産)
貸倒引当金の決算整理仕訳
→貸倒引当金(資産のマイナス)
実際に貸倒れが起きたときの仕訳は、「売掛金」を貸方に計上して直接減らしています。
一方で、貸倒引当金の決算整理仕訳では、貸方に「貸倒引当金」が計上されています。
「貸倒引当金」は資産のマイナスを表す勘定科目であり、ホームポジションは貸方です。
つまり、「貸倒引当金」を増やすということは、資産(この問題では売掛金)を減らしているのと同じ効果があるわけです。
よって、貸方に関しても、この両者の仕訳は似ているといえます。
要するに、
という仕訳は、
という仕訳を擬似的に再現していると言えます。
貸倒引当金の目的(効果)
では、決算整理仕訳で「貸倒引当金」を計上すると、どのような効果があるのかについて説明します。
効果は二つです。
一つは、先ほど言ったように費用を先回りして計上できることです。
もう一つは、翌期において実際に貸倒れが起きた時に、
損(費用)を計上せずに済む
もしくは、
損(費用)の計上額が少なくて済む
ことです。
なぜなら、前期に生じた債権が貸倒れた場合、「貸倒引当金」があればそれを充当して処理することができるからです。
「貸倒引当金」が無かったら、貸倒れの金額は全て「貸倒損失」になります。
よって、決算整理仕訳で「貸倒引当金」を計上するということは、
当期の費用は大きくなるが、将来の費用は小さくなる
ということです。
これが、損失(費用)を前倒しで計上しているの意味です。
貸倒れが起きたときの仕訳の詳細は次の記事で解説しています。
貸倒引当金が既にある場合(差額補充法)
次に、決算整理のときに既に「貸倒引当金」がいくらかある場合について解説します。
これは結論としては単純で、
足りない分だけ補充する
という方法を採ります。
この方法を差額補充法といいます。
先ほどの例で、
期末の売掛金1,000円に対し、3%の貸倒れを見積もった場合
は、
用意すべき貸倒引当金は30円となりました。
※1,000円×3%=30円
このときに、仮に「貸倒引当金」が既に5円あった場合には、仕訳は次のようになります。
※30円−5円=25円
足りない差額だけを補充するから差額補充法というのです。
【練習問題】貸倒引当金の決算整理仕訳
では、最後に貸倒引当金の仕訳練習を2つ行います。
【問題1】
売掛金期末残高3,000円について、貸倒実績率2%により貸倒引当金を設定する。差額補充法によること。なお、決算整理前において貸倒引当金の残高はない。
解答は次の通りです。
※3,000円×2%=60円
【問題2】
売掛金期末残高3,000円について、貸倒実績率2%により貸倒引当金を設定する。差額補充法によること。なお、決算整理前において貸倒引当金の残高が12円ある。
解答は次の通りです。
※3,000円×2%=60円
60円-12円=48円
ということで、問題は解けたでしょうか?
貸倒引当金の決算整理仕訳は、日商簿記3級ではほぼ100%出題されるので必ずマスターしておいてくださいね。
ということで、今回は以上です。
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