期中に貸倒れが起きた時の仕訳には色々なパターンがあり、日商簿記3級の受験生を悩ませる論点の一つです。
ですが、決して難しい意味や計算があるわけではありません。
注意すべきポイントは2つだけです。
そこさえ意識しておけば間違えることはありません。
この記事では貸倒れが起きた時の仕訳についてわかりやすく解説します。
そもそも貸倒れとはどういう意味?
貸倒れとは、得意先(客)が倒産することにより、債権が回収できなくなることをいいます。
債権とは、
- 売掛金
- 受取手形
- 電子記録債権
- 貸付金
などの、あとでお金を受け取れる権利のことです。
これらの債権の相手先が倒産してしまうと、お金を回収できなくなるので、当然ですが、当社としては損をします。
この損を「貸倒損失」という費用の勘定科目で計上することが、最も基本の仕訳となります。
基本にはなるのですが、それ以外のパターンもあるから学習者の方が混乱してしまうのです。
なお、先ほど言ったように、債権とは、
- 売掛金
- 受取手形
- 電子記録債権
- 貸付金
など色々ありますが、簿記3級の問題で貸倒れとして出題される場合は「売掛金」の貸倒れがほとんどなので、この記事でも「売掛金」の貸倒れを例に解説します。
(※ただ、どんな債権であっても、貸倒れの仕訳の仕方は基本的には変わりません)
貸倒れの仕訳のやり方を解説
では、具体的な仕訳のやり方を説明します。
期中に貸倒れが起きたときの仕訳は、その債権が、
- 当期発生したものなのか
- 前期以前に発生したものなのか
を注意深くチェックしてください。
なぜなら、
- 当期発生したもの
- 前期以前に発生したもの
のどちらなのかによって、仕訳の方法が違うからです。
ここを見誤ると正しく解答することはできません。
逆に言えば、そこさえ正確に読み取れれば間違える確率は一気に減ります。
結論としては、
- 当期発生の債権の貸倒れ→「貸倒損失」に計上
- 前期以前発生の債権の貸倒れ→「貸倒引当金」を使い(充当し)、足りない分は「貸倒損失」に計上
となります。
なお、
- 貸倒損失 → 費用
- 貸倒引当金 → 資産のマイナス
です。
資産のマイナスの意味が分からない場合は負債と考えても問題ありません。
当期発生の売掛金が貸倒れた場合の仕訳
最初に、当期発生の売掛金が貸倒れた場合の仕訳を見ていきます。
【問題1】
得意先の倒産により、当期に発生した売掛金120円が貸倒れた。
まずは解答を表示します。
貸倒れによって売掛金が消滅してしまったので、まずは貸方に「売掛金」を計上します。
次に借方ですが、当期に発生した債権が貸倒れたときは、借方を「貸倒損失(費用)」とします。
売掛金が無くなってしまったことによる損(費用)というような意味合いです。
前期以前発生の売掛金が貸倒れた場合の仕訳
次に、前期以前発生の売掛金が貸倒れた場合の仕訳を見ていきます。
【問題2】
得意先の倒産により、前期に発生した売掛金120円が貸倒れた。なお、貸倒引当金が200円ある。
まずは解答を表示します。
貸倒れによって売掛金が消滅してしまったので、まずは貸方に「売掛金」を計上します。
次に借方ですが、前期以前に発生した債権が貸倒れたときは、借方を「貸倒引当金」とし、足りない場合はその分を「貸倒損失」に計上します。
今回の問題では、前期に発生した売掛金が120円貸倒れました。
そして「貸倒引当金」が200円あります。
よって、貸倒引当金は足りています。
貸倒れの額が貸倒引当金の範囲内なので、借方は全額を「貸倒引当金」で計上することができるわけです。
【問題3】
得意先の倒産により、前期に発生した売掛金120円が貸倒れた。なお、貸倒引当金が100円ある。
まずは解答を表示します。
貸倒れによって売掛金が消滅してしまったので、まずは貸方に「売掛金」を計上します。
次に借方ですが、前期以前に発生した債権が貸倒れたときは、借方を「貸倒引当金」とし、足りない場合はその分を「貸倒損失」に計上します。
今回の問題では前期に発生した売掛金が120円貸倒れました。
そして「貸倒引当金」が100円あります。
(100円しかありません)
よって、貸倒れの額が貸倒引当金の額を超えているので、借方は「貸倒引当金100」を計上するとともに、貸倒引当金でカバーできない20円は、「貸倒損失」に計上するしかないというイメージです。
※120−100=20
貸倒れの応用仕訳問題
では最後に貸倒れの応用問題を行います。
全部で4問行いますが、4問全てが一連のストーリーとして繋がっている問題です。
【仕訳問題】
次の一連の取引について仕訳をしなさい。
なお、貸倒引当金が150円ある。
(1) 前期に発生した売掛金90円が貸倒れた。
(2) 当期に発生した売掛金30円が貸倒れた。
(3) 前期に発生した売掛金80円が貸倒れた。
(4) 前期に発生した売掛金60円が貸倒れた。
では、まずは解答を表示します。
(1)~(4)まで全てつながっている一連の仕訳問題です。
よって、「貸倒引当金」の残高を常に意識し追いかけていく必要があります。
「貸倒引当金」の残高は150円からのスタートなので、T勘定は最初は次のような状態です。
それでは、順番に解説していきます。
(1) 前期に発生した売掛金90円が貸倒れた。
前期以前に発生した債権が貸倒れたときは、借方を「貸倒引当金」とし、足りない場合は、その足りない分を「貸倒損失」とします。
今回は、90円の貸倒れに対し貸倒引当金は150円ありますので、貸倒れに対し貸倒引当金でカバーすることができます。
よって、90円全額を「貸倒引当金」で処理します。
その結果、「貸倒引当金」の残高は60円となりました。
(2) 当期に発生した売掛金30円が貸倒れた。
当期に発生した債権が貸倒れたときは、借方は必ず「貸倒損失」です。
これは「貸倒引当金」の残高があろうと無かろうと関係ありません。
当期発生の債権の貸倒れには、「貸倒引当金」は使えないのです。
なぜなら、貸倒引当金は前期決算の時点で存在していた債権を対象に設定されたものだからです。
よって、全額を「貸倒損失」で処理します。
(3) 前期に発生した売掛金80円が貸倒れた。
上記(1)の解説と重複しますが、前期以前に発生した債権が貸倒れたときは、借方を「貸倒引当金」とし、足りない場合は、その足りない分を「貸倒損失」とします。
今回は、80円の貸倒れに対し貸倒引当金は60円しかありませんので、貸倒れに対し貸倒引当金でカバーしきれません。
よって、60円までは「貸倒引当金」で処理できますが、足りない分の20円は、「貸倒損失」とします。
※80円−60円=20円
なお、この仕訳をもって、「貸倒引当金」の残高はゼロになりました。
「貸倒引当金」が無くなった以上、これ以降の貸倒れは全て「貸倒損失」に計上することになります。
当期発生の債権だろうと前期以前発生の債権だろうと全て「貸倒損失」です。
(4) 前期に発生した売掛金60円が貸倒れた。
しつこいようですが、前期以前に発生した債権が貸倒れたときは、まずは貸倒引当金を使います。
ですが、上記(3)の貸倒れによって、「貸倒引当金」はゼロになってしまいました。
よって、今回の貸倒れ額60円は全て「貸倒損失」となります。
ということで、一連の仕訳問題をやってみましたがいかがでしたか?
当期発生の債権の貸倒れに関しては、どんな状況であれ「貸倒損失」にすればいいから楽なのですが、
前期以前発生の債権の場合は、「貸倒引当金」の残高を常に意識しておかなければなりません。
とはいえ、とてつもなく難しい問題かというとそうでもないですから、ケアレスミスに注意して確実に解けるようにしてください。
ということで、今回は以上です。
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